Compartir

13話 大きな背中

last update Fecha de publicación: 2026-02-02 17:20:04

湊は信じられないものを見るような目付きで私を見ている。

(あぁ、そう言う事ね……)

私は湊のそんな顔を見てやっと理解した。

湊の時間は五年前で止まっているのだ。そこから動いていない。今、目の前に居る私が五年前の私と何も変わっていないと、そう思い込んでいる。いや、そう思いたいんだろう。きっと湊自身もそうだから。だから突然、私が天才医師「X」として目の前に現れた今の現実から目を逸らしているのだ。

「あぁ、そうさ。俺が五年前に燈に酷い事を言った。俺は後悔しているんだ。あんな事を言うべきじゃなかった。意図せず俺たちの会話を聞いてしまったのかもしれないが、あの時の俺はどうかしていたんだ」

(どうかしていた、ね……)

(それは今もそうじゃない)

そう思ったら笑えた。私が何も言わないで笑ったのを、湊は自分に都合良く受け取ったのだろう、私に懇願するような眼差しを向けて言う。

「どうすれば良い? 跪いて謝れば良いかい?」

さも自分が譲歩していると言わんばかりの言い方だ。ケンカ別れした恋人たちがなし崩し的に仲直りするような、そんな展開が湊の頭の中では繰り広げられているんだろう。私は湊のそんな態度に呆れ返
Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App
Capítulo bloqueado

Último capítulo

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   323話 捜査

    遼大がクローゼットを開ける。パッと見、それ程、おかしな点は無いように見える。「服が数着、無くなっているな」遼大がそう言う。「服の数を知っているの?」私がそう聞くと遼大が笑う。「前に来た時に、ここで血染めのカードを発見した」そう言って遼大がクローゼットの真ん中を指す。血染めのカード ――それは颯太のアレルギーカードの事だ。「その時にザっとだがクローゼットの中を見ていた」その時に見たクローゼットの中を覚えていた、という事なんだろう。「燈」遼大に呼ばれる。「ちょっと来て」そう言われて私も慎重に中に入る。愛沢くるみの部屋は初めてだ。一面ピンク色の部屋。壁には大きく引き伸ばした愛沢くるみ自身の写真が飾られている。自己顕示欲、承認欲求、そんなものが隠す事無く、現れている部屋。「ここ、開けて」遼大はそう言いながら私に手袋を渡す。「いつも持ち歩いているの?」私が少し笑いながらそう聞くと遼大が言う。「備えあれば何とやら、だよ」そう言われて私は手袋を装着して、遼大に言われた場所を開ける。そこには下着類がしまってある。「何か違和感は?」そう聞かれて私はそこを眺める。「うん……確かに違和感があるわね」下着の入っていたであろう場所が少し乱れている。「早紀さん」遼大は今度は立川さんに呼びかける。「はい、遼大様」遼大は立川さんに向かって言う。「早紀さんなら、分かるかな」立川さんが恐る恐る部屋の中に入って来る。(やっぱり、怯えているのよね)そう思いながら私は立川さんと場所を代わる。立川さんが引き出しを覗き込み、そして言う。「下着がいくつか無くなっています」そういう立川さんに聞く。「洗濯物を戻すのはあなたの役目?」そう聞くと立川さんが少し笑う。「私の役割では無かったんですが、加山さんが森崎家を出てからは私が」そう言われて私たちは顔を見合わせる。(そうか、加山良江がいた……)私は入り口に立っている湊を見る。湊が頷いて、スマホを手にする。◇◇◇「やはり、下着類と衣服が数着、それから……」加山良江が部屋を見回す。湊がすぐに加山良江を呼んでくれた。駆け付けた加山良江は手慣れた様子で愛沢くるみの部屋の中に入って来て、部屋を観察している。部屋からクローゼットの中に視線を戻した加山良江が私を見て言う。「壁に掛けてあった小

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   322話 違和感

    急いで支度をし、ホテルの部屋を出る。「一体、どういう事なのかしらね」歩きながら私がそう言うと遼大が少し考える。「今になって何で愛沢くるみの部屋に誰かが侵入したのか……」きっと遼大は自分の頭の中で、様々な事を組み立てているのだろうと思った。昨日の夜、私たちは第七区画で千堂弘、愛沢くるみを見失った。その足取りのヒントになりそうなものは、いくつか分かったけれど。時間が遅かった事もあって私たちは休息を取った。「どうして愛沢くるみの部屋に入れたんだ?」遼大がそう呟く。◇◇◇森崎家に到着すると、そこには湊も来ていた。「高嶺さん、燈」湊は森崎家の前で待っていた。「誰かが侵入した事は、誰から?」私がそう聞くと、湊が言う。「森崎家の使用人からだ」湊はそう言って遼大を見る。「中には入れるが」遼大が難しい顔をする。侵入した何者かを“捜査”するとなれば、警察に入って貰う事になる……そう言いたいのだろうと思った。その時、遼大のスマホが鳴った。遼大がスマホを確認すると、誰かからのメッセージのようだった。「父が中を確認して欲しいと、そう言っている」そう言いながら遼大が画面を私たちに見せた。そこには森崎家の当主であり、遼大のお父様の森崎健太郎からのメッセージが表示されていた。「確認を取った方が良いと思うの」私がそう言うと遼大が電話をかけ始める。◇◇◇結局、森崎健太郎の指示で、私たちは森崎家の中へ入る事にした。玄関には使用人が一人立っていた。「遼大様……」その使用人は少し年を重ねている女性。「早紀さん……」遼大はそう言って微笑み、私たちに紹介する。「立川早紀さんは、昔から森崎家で仕事してくれている人だ」中に入り、遼大が聞く。「何があった?」そう聞くと立川さんが言う。「遼大様にも、旦那様にも奥様にも秘密にしていた事があります」私たちはそれを聞いて顔を見合わせる。「秘密?」遼大がそう聞くと立川さんが頷く。「話は後からでも出来ますので、まずはくるみお嬢様のお部屋へ」立川さんがそう言って、私たちをあの部屋へ案内する。階段を上がり、いくつかの扉を通り過ぎて、あの部屋の前に来る。「異常があったのは愛沢くるみの部屋だけなのか?」そう湊が聞くと立川さんが頷く。「はい、そうです」侵入した何者かは、愛沢くるみの部屋にだけ、

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   321話 侵入

    夜の山の中を疾走し、街中へ入る。時間は深夜。もう誰も起きてはいないだろうと僕は予想した。あれだけの騒ぎが起き、現場の検証や一番重要な人物――千堂弘様への追跡などで僕の事など彼らの視界には入っていないだろうと予想し、それは当たっていた。しかも僕の逃走に使った車は、秘密裏にあの第七区画を出ていた。先に飛び出して行ったのは囮の車両で、その車両の方にその場にいた全員が注目を向けるよう、派手に出て行ったのだから。街中を走り抜け、森崎家に到着する。ここはくるみちゃんが長年を過ごした場所で、くるみちゃんをずっと見て来た僕にとってはまさに聖地だった。聖地だからこそ、僕はこの森崎家についてかなり入念に調べ上げてあった。森崎家から少し離れた場所、昼間はどこかの会社の駐車場になっている場所に車を停め、歩き出す。ここは夜間は車が停まらない場所だった。森崎家は財閥の中ではかなり小規模だ。それは屋敷にも表れている。そして一番重要なのは。この屋敷には今、使用人以外、誰も居ない、という事だった。森崎家の当主である森崎健太郎も、その妻の森崎望美も居ない。どういう経緯かは分からないが、森崎望美の療養に、当主である森崎健太郎が付き添っていて、屋敷を空けている。くるみちゃんはサロン・ド・オーキッドでの仕事がある為、夜中から朝方に屋敷に戻る事が多かった。だからくるみちゃん自身がいつでも家の人間に知られる事無く、屋敷に戻れるよう、屋敷の裏口は常に開けられている。裏門に手を伸ばす。カチャン、と小さな音を立てて裏門が開く。ニヤリとする。足音を消し、気配を消しながら僕は屋敷に近付く。いつでも帰れるように、くるみちゃん自身がそう言って、森崎家の人間には絶対に知られないよう使用人たちを黙らせていた。裏口に手を伸ばす。……ビンゴ。カチャリと小さな音を立てて扉が開く。下調べは完璧だ。森崎家ではくるみちゃん自身が絶対の権力を持っていた。使用人たちを統制し、逆らえばすぐに解雇になる。そこに情なんてものは存在しない。だからこそ、森崎家の使用人の誰もがくるみちゃんには従った。そのくるみちゃんが使用人という立場の人間たちを嫌っていた。かつては自分がそうだったから、なのか。それは分からない。だから森崎家の使用人たちの部屋は屋敷の地下に集められている。足音を消し、くるみちゃんの部屋に向かう。部屋を開ける

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   320話 後悔

    ホテルに戻った私と遼大は疲れ果てていた。「すごい一日だったわね」私がそう言うと遼大が笑う。「ここのところはずっと激動の毎日を送ってるよな」そう言いながら笑う遼大に私も同じように笑う。「本当にね」遼大と一緒にシャワーを浴び、なだれ込むようにベッドに入る。遼大は私を抱き寄せて抱き締めながら考え事をしている私に言う。「今日はもう考えるのを止めにしよう」そう言われて私は苦笑する。「そうね」医師としての仕事をこなしながら、いろんな人の協力があって、それまで着た事の無いタクティカルスーツなんかを着て、入った事の無いような危険な場所へ入る……今まで出会った事の無いような邪悪な考えを持つ人間たちと対峙して、自分がいかに恵まれた環境に居たのかを痛感し、父や母、そして時には湊に、颯太に、そして今は遼大に守られているのだなと実感する。明日は何をするんだっけ……そんな事を考えているうちに眠りに落ちる。◇◇◇「加山さん、どう?」屋敷に戻った俺は、PCの前に居る加山良江に声を掛ける。加山良江はずっと屋敷の中で俺を後ろからサポートしてくれている。「やっとお役に立てました」そう言う加山さんには少し疲れが見える。「無理をしないで。今日のところは解散になった。燈も高嶺さんも賀神さんも皆、今日は休んでいる。加山さん、あなたも今日のところは休んで」俺はそう言って加山良江に微笑む。「はい、湊様」加山良江はそう言ってPCの前から立ち上がり、俺に一礼して部屋を出て行く。俺は大きく息をついて、さっきまで加山良江が見張っていたPCの前に座り、その画面を眺める。その画面には広範囲の地図が示されていて、その地図上に大きな円を描いてキャッチした愛沢くるみの位置情報が載っている。また電源が入れば、もう少し範囲を狭める事が出来るだろう。高嶺さんもどこかに連絡を入れていたようだし、俺や加山良江のような素人では追えないような追跡の仕方をしてくれるだろう。どこで道を間違えたのか……。そこで俺は苦笑する。いや、最初からだ。俺たちの前に愛沢くるみが現れた時から、もう既にこの運命は始まっていた……。そう思ったが俺は自戒する。いや、違う。俺自身がきちんと自身の身を律していれば、こんな事にはならなかったかもしれない。溜息をつき、想像してみる。俺が愛沢くるみに傾倒する事無く、燈を大

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   319話 イルミのストラップ

    「どこでその電波をキャッチした?」遼大がそう聞くと湊はスマホを出して、画面をタップする。プツッと電話がつながる音がして電話の向こうの人物が言う。『はい、湊様』その声は加山良江だった。「加山さん、愛沢くるみのスマホの電波の範囲は?」湊にそう聞かれた加山良江が電話の向こうで言う。『ほんの一瞬だったので、かなり大きな範囲しか分かりませんでしたが』そう言いながら電話の向こうで加山良江が続ける。『聖カトリーナを起点とすると、南西の方角に50キロ離れた場所、山の中です』遼大がタブレットを出し、聖カトリーナを中心に南西の方角に50キロ離れた場所を地図上で確認する。「50キロ……」私がそう呟くと賀神さんが言う。「かなり離れていますね」自分の腕時計を見る。あの爆発の直後から1時間が経過している。遼大はスマホを出し、どこかに電話をかけ始める。ノックが響き、振り返ると入って来たのは遼大の部下の人だった。遼大がどこかに電話を掛けているのを見て、小さく会釈し、一歩下がる。遼大は私の肩に手を置き、頷く。私はそれに応じて、部下の人に聞く。「どうしたの?」部下の人が私に近付き、言う。「湾岸警備の方から連絡が」そう言われて私は遼大を見る。遼大が電話を掛けながら頷く。「話して」私が促すと部下の人が言う。「やはり高嶺総帥のご推察の通り、第七区画の北西の方角から逃走に使われた船があったそうです。船は現在、北西の方角、35キロ地点で乗り捨てられています」私は遼大の部下の人に聞く。「その船は確保済み?」部下の人が頷く。「はい、確保済みです」時間は既にかなり遅い時間になっている。軽く溜息を吐き、私は遼大の部下の人に言う。「分かったわ、報告ありがとう。その船はそのまま保全しておいて。確認はまた明日にするわ」私がそう言った事で皆が私を見る。「今日はもう遅いわ。みんな、それぞれ疲れているでしょうから、一度休んだ方が良いと思うの」私がそう言うと電話を切った遼大が言う。「俺もそう思う」そう言って遼大は私の肩を抱き、皆に言う。「電波の範囲の絞り込みはこっちで頼んでおいた。これから先ももしかしたらまた電波が入るかもしれない。それに」遼大はそう言って私に微笑む。「俺たちには愛沢くるみのスマホに付けたバックドアがある」◇◇◇聖カトリーナを出ながら賀神さ

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   318話 想定外の選択肢

    「海の方はどう?」オフィスに戻った私は一緒に戻って来た遼大にそう聞く。遼大は絶えずスマホやタブレットを見て、状況の確認をしている。「闇夜に紛れて海に出ているから、見つけるのは至難の業だろうな」遼大にそう言われて、私はまたしても出し抜かれた事を痛感する。「でも、それじゃあ、千堂弘が私たちを呼んだ、あの電話も挑発だったんですかね?」賀神さんがそう聞く。千堂弘からの入電。挑発するような物言い、そして私たちに自分の尻拭いをさせるとそう宣言したあの電話。愛沢くるみがあの第七区画に居た事も、そして千堂弘が居た事も、それは紛れも無い事実だ。愛沢くるみのネックレスが落ちていた事、そして。その愛沢くるみに私たちの知り得ない抽出術をしたであろう千堂弘。「千堂弘は愛沢くるみを連れて逃げたと思う?」私がそう聞くと遼大が首を傾げる。「どうだろうな……俺たちに電話をかけて来ていた、あの時点では千堂弘は俺たちに愛沢くるみの後処理をさせるつもりだった事は確かだろうと思うが」そこまで話して遼大は何かを考え込む。海に逃げた者たち、そして車両を使って逃げた者たち、更に追加でもう一台。計三つの逃走班が居て。そのどこかに千堂弘、そして愛沢くるみが居る。私たち三人はソファーに座り、それぞれに考えを巡らせる。不意に遼大が身を乗り出し、聞く。「燈なら、どうする?」そう聞かれて私は言う。「私が千堂弘なら、やっぱり愛沢くるみを手元に置いておきたいから、一緒に連れて逃げるわ」遼大は賀神さんを見る。「賀神は?」遼大にそう聞かれた賀神さんが言う。「私が千堂なら、リスクを分散させた方が良いと考えるだろう。だから自分の部下に愛沢くるみを託すかもしれない。手元に置いておいた方が良いという部分は佐伯顧問と同意見だが逃げるにはリスクが高い」私は遼大を見る。「遼大は?」そう聞くと遼大が考えながら言う。「俺も賀神と同意見だ。前回、ベイサイドパイロットプラントの時、千堂弘は俺たちに愛沢くるみを渡した」そう言って遼大が自分の首を指差す。「それは愛沢くるみへの施術の後処理を俺たちにさせる為……それから自分が十分に逃げる時間を取るためだっただろう」確かに千堂弘は前回、私たちに愛沢くるみを渡した。そして不意を突いて、また攫ったのだ。「一度、愛沢くるみを取り戻した俺たちは、愛沢く

Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status